うたかた  W



 ふらふらとした足取りで、ルルーシュは雨が降る真夜中にひとり歩いていた。
 混乱する頭でどうにか泣きじゃくるシャーリーを慰めて、無理を言ってタクシーに乗せて帰らせたことまでは覚えている。そのあとのことはほとんど記憶になく、道行く道をひたすら歩いていたルルーシュは、今自分がどこを歩いているのか分からずにいた。
 大通りに出れば走っているタクシーを捕まえて、自宅に帰れることから焦りはない。全身濡れ鼠状態では乗車を拒否されるだろうが、今はそれも良いとルルーシュはひっそりと笑う。
 今はただひたすら雨に打たれていたいと足をとめたルルーシュは、近くの壁へと寄りかかった。
 帰りたくなかった。
 クロヴィスをこの手で殺したときに、覚悟は決めた。なにを犠牲にしても、立ち止まらないと。どれほどの犠牲を払ったとしても、振り返らないと。
 なのに今、立ち止まって振り返ってしまいそうになる。数え切れないほどの名も知らない多くの人たちを犠牲にしながら、今さらなにをと自分の打たれ弱さにルルーシュは呆れてしまう。
 寒くもないのに震える体を両手で抱きしめながら雨に打たれていたルルーシュは、遠くから誰かに呼ばれた気がした。こんな真夜中に、しかも雨が降っている中、知り合いと遭遇するはずがない。おそらくは空耳だろうとルルーシュは判断した。
 真夜中の雨が降る中、傘も差さずに長時間同じ場所にいれば不審者として通報されかねない。そろそろ帰るかと、掠れた声でルルーシュは呟く。
 帰りたくないと思っていても、朝になっても帰らなければナナリーが心配する。それでなくともここ最近なにか不安そうなナナリーに心配をかけたくないと歩き出そうとしたルルーシュは、誰かに腕を引かれてバランスを崩した。
 倒れると、ルルーシュは咄嗟に目を瞑る。地面への衝撃を覚悟していたが、誰かの腕によって抱き留められた。
「ご、ごめん!」
 大丈夫だったと顔を覗き込んできた相手に、ルルーシュは思わずその顔を確認した。
「……スザク?」
 どうしてと。呆然とルルーシュは呟く。
 すでに日付が変わろうとしているこんな真夜中に、それも軍施設からもアッシュフォード学園からも離れたこんな場所にと戸惑っていれば、ぐいっと頬をつかまれた。
「えっ?」
「ああ、やっぱり。顔色が悪いと思ったら、こんなにも冷えて!」
 差していた傘を差し出され、思わず受け取れば、軍服の上着を脱ぎだしたスザクにルルーシュは慌てる。
「スザク、なにを……っ!」
「はい、これ着て」
 脱いだばかりの上着を肩にかけたスザクに、ルルーシュは焦る。
「待て! これじゃあお前が寒いだろう!!」
 いらないと、多少雨に濡れてしまったが、肩にかけられた上着を返そうとすれば、良いからと強引に上着をもう一度着せられる。
「鍛えているから、これぐらいの寒さは平気だよ。それより、今の君を見ている方が寒いから着ていて。お願いだから」
 ねっと顔を覗き込むスザクに、ルルーシュは渋々ながら頷く。
 先ほどまでスザクが着ていた上着は温かくて、思っていた以上に体が冷え切っていたことを教えてくれる。冷え切っていた体に突然与えられた温もりに、こぼれそうになる涙を堪えながら、ルルーシュはうつむきながらスザクへと礼を言う。
「ありがとう、スザク」
「これは僕の我が儘だから、お礼は良いよ。それより、どうしたの? 帰宅途中とは思えないけど、これからどこかに行こうとしていたの?」
 違うと、ルルーシュは頭を振る。
「……これから、帰ろうかと」
「そう。なら、こんな真夜中に、それも雨が降っている日に傘も差さずにどうしたの? なにかあったの?」
 なんと説明すれば良いのか分からずに、言いたくないとルルーシュは首を横に振る。
 今は誰にもなにも話したくなかった。どんな風に言葉を変えて話そうと、自分の罪は消えはしない。
「……分かった。なにも聞かないよ。それより帰ろう。風邪を引いちゃうよ」
 さあと。傘を奪うような形で受け取ったスザクは、ルルーシュの腕をつかむ。
「まっ、スザク!」
「ルルーシュ……?」
 腕をつかんで歩き出そうとしたスザクを、ルルーシュは慌てて引き留める。
「えっと、その。だから……」
「ルルーシュ、どうしたの?」
「帰りたくないんだ。だから、あの……っ」
 きっと一緒に帰れば、あっという間にアッシュフォード学園に着いてしまう。できればゆっくりと――少しでも帰るのを遅らせたいルルーシュは、なんと説明すればいいのだろうかと頭を悩ませる。
「ナナリーと喧嘩でもしたの?」
「違う」
「でも、帰りたくないんだ?」
「ああ」
 こくりと頷けば、なにやら考え込むスザクに、ルルーシュは首を傾げる。
「――分かった」
「ス、スザク?」
 うんっとひとつ頷いたかと思えば、ルルーシュの腕をつかんだまま、スザクは歩き出した。強くはないが、しっかりと腕をつかんでいるスザクに引きずられる形で歩くしかないルルーシュは狼狽する。
「待て、スザク!」
 帰りたくないと言ったのに歩くのをとめないスザクに、ルルーシュは拳を振り上げたくなる。
「帰りたくないなら、ホテルに行こう」
「えっ?」
「今はとにかく、その体を温めなきゃ」



 ぷくぷくと湯船に顔を半分沈めながら、ルルーシュは口から息を吐き出す。
 全身濡れ鼠のブリタニア人と、軍服を着ているとはいえナンバーズという組み合わせに、最初は顔をしかめていたホテルの従業員だったが、身分証明書をスザクが提示したことで対応はがらりと変わった。
 スイートとまではいかないが、それなりにランクの高い部屋に案内されたかと思えば、スザクによって無理矢理浴室へと投げ込まれた。温まるまで出ちゃ駄目だからねという半分脅しにも思えた言葉に従って、ルルーシュはお湯がたっぷりと張られた浴槽に身を沈めていた。
 スザクの機転は、正直助かった。けれど、ひとりっきりになりたかったルルーシュにとって、スザクであろうと傍にいてほしくはなかった。
 浴室を出ればスザクがいることに、少しだけ安堵していた。ただ、それ以上に息苦しい。矛盾しきった自分の感情に、ルルーシュはぎゅっと目を閉じる。
 ゆっくりと浴槽に浸っていたお陰で、冷え切っていた体は温まった。そろそろ出ようとして、外にスザクがいると思うと中々踏み切れない。
 浴室を出たらスザクがいなければ良いのにと思いながらも、いざスザクがいなければ落胆するのは目に見えていた。
 もしもスザクにゼロの正体は自分だと教えていたら、少しはこの気持ちは違っていただろうか。
 ゼロとして黒の騎士団へと入るよう誘ったが頷かず、差し伸べた手をスザクは振り払った。ブリタニアに身を置いて、ゼロと敵対する道をスザクは選んだ。
 あのとき――オレンジ事件のときに誘いに頷いてくれていたら、今頃はなにも考えずにあの腕に飛び込むことができたのに。
「……やめよう」
 今はそんなことを考えたところで、なにかが変わるわけでもない。頭を振ったルルーシュは立ち上がり、浴槽から出た。
 浴室から出てタオルを手に取ったルルーシュは、はたっと気づく。
 脱いだ服は雨に濡れて、とても着られるような状態ではなかった。無理をすれば着られないことはないだろうが、その前に袖を通す気にはなれない。仕方なくホテルが用意しているバスローブへとルルーシュは手を伸ばし、身につけた。
 恐る恐る浴室の扉を開いて顔だけを覗かせれば、ベッドに座ってテレビを見ていたスザクが振り返った。
「あっ、上がった?」
 ベッドから立ち上がり、ルルーシュへと近寄ったスザクは確認するように顔を覗き込んだ。
「うん、温まったみたいだね。でも、まだ髪が濡れてる」
 貸してと、手に持っていたバスタオルを奪ったスザクは、水滴が滴り落ちている髪を拭く。
「スザク、自分で――!」
「良いから」
 やらせてと、無骨な手には似合わないやさしい手つきで髪を拭くスザクに、ルルーシュは抗うことなく諦めた。
「服はクリーニングに出すね。さっきフロントに電話して聞いたら、明日朝一には仕上がるって」
「あ、ああ」
 これでいいねと髪を拭き終わるなり、脱衣所に置いていた濡れた服を手に取り部屋を出て行ってしまったスザクに、ルルーシュは心細げに部屋を見渡す。
 ホテルに泊まったことがないわけではないが、ひとりっきりという状況がひどく心細かった。すぐにでもスザクが戻ってくると分かっているのに、ギュッとバスローブの合わせ目をルルーシュは握りしめる。
「ただいま。――ルルーシュ?」
 どうしたのと、出て行ったときと変わらずに部屋の真ん中に立っているルルーシュに、スザクは顔をしかめる。
 まさか心細かったとは言えずに、ルルーシュは口籠もる。
「いや、うん。その……」
「今日はここで休んでいくと良いよ。支払いは済ませておくから」
「いや、それは俺が出す」
 機転を利かせてホテルまで連れてきてくれたことだけでもありがたかった。流石にホテル代までスザクに負担してもらうつもりはない。
「でも、ここに連れてきたのは僕だし」
「俺が家に帰りたくないと言ったからだろう。とにかく、ここの支払いは俺が出す」
「やっぱり良いよ。それに僕は働いているし」
「その金は自分のために使え。それに、多分お前が考えている以上に蓄えはある。もしかしたらお前より貯金はあるぞ」
「えっ!?」
 驚きの声を上げたスザクに念のため過少申告すれば、絶句された。なんでそんなにと戸惑っているスザクに、半分以上は非合法な手段で手に入れた金だとは言いづらい。
「……僕の貯金金額の倍はあるよ」
「まあ、金はあっても困らないからな。むしろ、いざというときにないと困るだろう」
 それこそいつまでアッシュフォード家の庇護下にいられるか分からないのだ。いつ放り出されても良いように、一生とまではいかないが、しばらくは働かなくてもナナリーと暮らしていけるだけの蓄えは貯めていた。
 月々アッシュフォード家からもそれなりの金額が生活費として支払われており、ほとんど使い切ったことはない。お陰で稼いだお金のほとんどは使わずに貯めていたお陰で、相当な金額が貯まった。
「でも、それってルルーシュがひとりで貯めたんだよね?」
「まあ、そうだな」
「アルバイトとかで簡単に貯まる金額じゃないけど、どうしたの?」
「……株とか、まあ、色々」
「色々……?」
 なにかに勘づいたのかスッと目を細めたスザクに観念したルルーシュは、視線をそらしながらぼそぼそと呟く。
「……リヴァルに誘われて、賭けチェスの代打ちで貴族から金を巻き上げたりしていた」
 想像したとおり驚きに目を見開いたスザクに、記憶を失っても性格は変わらないものだなと感心する。記憶を失う前に教えたときにも、もう二度とそんなことはしないでと怒られたものだ。
 馬鹿正直で曲がったことが大嫌いなスザクにとっては信じられない行為だと分かっているが、世界はスザクが考えているような正しいことが正義ではない。
 権力や力が全て――。
 権力と力、そして金さえあれば、どれほど黒くても白にできる。それがブリタニアの正義だ。
 それを利用して、金を手に入れることのなにがいけない。奇麗なお金ではないが、価値に違いはなく、万が一の時には絶対に必要となるものだ。
「――ルルーシュ」
「もう二度とそんなことをするなと言いたいんだろう? 分かっている。それに、少し前にとめたよ。嘘だと思うなら会長やリヴァルに聞いてみると良い」
「それなら良いけど……」
 相変わらず曲がったことが大嫌いなスザクに呆れつつも、だからこそ惹かれるのかもしれない。どうしたらこの男を手に入れることができるのだろうかとぼんやりと考えていれば、先日のC.C.の言葉を思い出した。


 ――ギアスをかけてしまえ。


 甘くささやくように誘惑するその声に、駄目だとルルーシュは頭を振る。
 スザクにだけはギアスは使えない。
 ギアスを使えば、確かにスザクを手に入れることができる。でもそれでは、本当の意味でスザクを手に入れたことにはならない。
 ギアスを使ってスザクを手に入れることができても、虚しい思いをするだけだ。それが分かっていて、使えるはずがなかった。
「ルルーシュ?」
 急に頭を振ったことで不審がるスザクに、慌ててなんでもないとルルーシュは答える。
「とにかく、お金はちゃんと持っているから、ここは俺が支払う!」
 話題を変えなければと、まだ決着が付いていなかったホテルの支払いへと話を切り替える。
「ルルーシュ、君が僕よりお金を持っているのは分かったけど、やっぱりここは僕が出すよ」
「スザク!」
「この前のお礼もまだしていないんだ。せめて、ここのホテル代ぐらいは出させてよ」
「この前って……?」
 なんのことだと、心当たりは全くなかった。スザクになにか感謝されるようなことでもしただろうかと、ルルーシュは本気で分からなかった。
「……ルルーシュ、まさかとは思うけど、心当たりはないとか言わないよね?」
「なにか礼を言われるようなことでもしたか?」
 本気で分からないと言えば、絶句された。
「……この前、勉強を見てもらったよね?」
「あ、ああ」
「そのときに何度か夕食もご馳走になったし」
「まさか、それ……?」
 いつものことだと、気にも留めていなかった。
 スザクの勉強を見るのも、夕食をご馳走するのもルルーシュにとっては当たり前のことだ。帰宅する際にきちんとお礼の言葉をもらっていたこともあり、何かしてもらう気もなかった。
「そのことについては気にするな。勉強を見るのはいつものことだし、夕食を一緒にと誘ったのは俺だ。なによりナナリーが喜んでくれたから、礼なんて――」
「でも、それじゃあ僕の気が済まない」
 きっぱりと言い切ったスザクに困惑する。
 記憶を失う前のスザクなら、当たり前のように甘受していたことだ。代わりにルルーシュもスザクにちょっとした頼み事をしていたため、お互い様とも言えた。
「……分かった。じゃあ、ここのホテル代については支払いを頼む。でも、礼はこれで終わりだ」
 言いだしたら聞かない性格なのは分かっているルルーシュは、ため息交じりにスザクへと支払いを頼んだ。スザクの性格を考えればこれだけでは終わらないことも知っていたルルーシュは、条件をあえてつける。
「でも」
「嫌なら、ここの支払いは俺がする」
 これだけは絶対に譲れないと言えば、渋々ながらにスザクは頷いた。
「服がクリーニングから戻ってくるのは朝だから、今日はここに泊まっていくと良い。それと、僕は傍にいた方が良い? ひとりでいたいって言うなら帰るけど」
 どうすると尋ねるスザクの袖を、気づけば握りしめていた。ひとりになりたいと思っていたはずなのに、自分の無意識の行動にルルーシュはひどく驚く。
「ルルーシュ……?」
「ええっと、違う! そうじゃなくて、そのっ」
 パッと袖から手を離したルルーシュは、なにか言い訳をしなければと慌てるが、慌てれば慌てるほどなにも浮かばない。言い訳が思いつかなかったルルーシュは、ついに音を上げた。
 ひとりっきりになりたいと思っていても、服をクリーニングに出しに行っているわずかな間でさえもスザクがいなくて心細かった。なにより、無意識の行動がひとりでいたくないのだと証明していた。
 うつむきながら、ルルーシュは恥を忍んで傍にいてほしいと頼み込む。
「……できれば、傍にいてほしい」
「分かった。じゃあ、僕もシャワーを浴びてくるけど、その間平気?」
「それぐらい平気だ、馬鹿スザク!」
 怒りのあまり手を振り上げるが、難なく躱したスザクは、苦笑しながら浴室へと消えた。ひとり残されたルルーシュは怒りに震えながら、スザクが避難した浴室の扉を睨み付けた。
「俺を一体なんだと思っているんだ!?」
 全くと怒りに顔を赤くさせながら、ルルーシュはベッドへと腰掛ける。
「……馬鹿スザク」
 ぽすりとベッドへと横たわったルルーシュは、目を閉じる。
 思い出すのは腕の中で泣きじゃくるシャーリーの姿。ナリタ連山で起こった土砂崩れに巻き込まれて父が亡くなったと。全身で悲しげに泣くシャーリーに、決意が揺れそうになる。
 多くの人たちを犠牲にしてまでも、これから成すことは本当に正しいことなのだろうか。
 ゼロの正体を知っているのは、C.C.とキョウト六家のひとり、桐原泰三のふたりのみ。桐原さえどうにかできれば、誰にも知られることも気づかれることもなく、ただのルルーシュに戻れる。
 揺れそうになる心に、ルルーシュはギュッとシーツを握りしめた。
「……それじゃあ、犬死にだ」
 これまで犠牲になった、数多くの命。もし今ここで終わらせたら、それこそ死者たちは浮かばれない。名も知れない多くの人たちの血で濡れた道を、今さら引き返すことも、立ち止まることもルルーシュには許されていない。
 ただ歩み続けなければいけないと分かっていても、つい考えてしまう。この隣にスザクがいてくれたらと。スザクさえいれば、迷わず前に進むことができるのに。
 うつらうつらとしながら思い悩んでいれば、ふっと誰かの手が頬に触れた。ゆっくりと目を開ければ、びくっと驚いた様子のスザクの姿が目に映った。
「ごめん、起こした?」
「いや、ちょっと考え事をしてて……」
 いつの間にシャワーを浴び終わっていたのか、頬に触れられるまでその気配に全く気づかなかった。寝るつもりはなかったのに、どうやらベッドで横になったことで半分夢心地になっていたようだ。
「夜も遅いし、もう寝た方が良いよ」
 すでに時計の針は日付の境界線を越えている。そろそろ寝なければ、明日もまたある学校に影響が出そうだった。
 それでなくとも、ふたりが今いるのはアッシュフォード学園から離れた場所にあるホテルだ。制服を自室に取りに行くことも考えると、いつもより早く起きてホテルを出なければ、始業時間までには到底間に合わない。
「いや、それが、その……」
「ルルーシュ?」
「……一緒に、寝てくれないか……?」
 意を決して、ルルーシュは尋ねる。
 恥ずかしさのあまり赤くなる頬にうつむきながら、ルルーシュはスザクの答えを待った。
 ツインで取った部屋には、ベッドがふたつ揃っている。普通なら別れて寝るところだが、ルルーシュは心細さから一緒に寝てほしいとスザクに請う。まだお互いが幼かった日のように。
 こんな年になってまで一緒に寝たいなどと恥ずかしさもあったが、これを逃せばもう二度とこんな機会は訪れないとルルーシュは意を決した。口に出してから、自分はなにを言っているのだろうと急に恥ずかしくなる。
「嫌なら、良いんだ。すまない、変なことを言って……!」
 なにも言わずに黙ったままのスザクに、流石に呆れられたのかもしれない。こんなことなら言わなければ良かったと後悔しながら、ルルーシュはスザクから視線をそらしたまま布団へと潜り込もうとした。
「――ス、スザク!?」
 突然背後から抱きしめてきたスザクに、ルルーシュは目を白黒させる。何事だと振り返ろうとすれば、首筋に顔を埋められた。
「……スザク?」
 なにも言わずに抱きつき、押し黙ったままのスザクを不審に思いながらも、具合でも悪くなったのだろうかとルルーシュは焦る。
 雨に濡れて震えていた自分のために、スザクは着ていた上着を脱いで貸してくれた。流石のスザクも体調を崩したのかもしれないと不安を抱けば、か細い声で名前を呼ばれた。
「スザク、体調でも悪いのか? そうなら――」
「違う、ルルーシュ。違うんだ」
 どこか苦しそうにしながらも、スザクは頭を振る。
「スザク……?」
 本当にどうしたのだと、心配になる。
 振り返ろうにも、がっちりとスザクに抱きしめられていて、それも叶わない。どうすれば良いのだろうかと頭を悩ませていれば、それは告げられた。



「――好きだ、ルルーシュ」



 その言葉を聞いて、頭が真っ白になる。
「こんなことを言われたって、迷惑だって分かってる。でも、ごめん。君のことが好きなんだ」
 好きだと告白してきたスザクに、夢でも見ているのだろうか。
 きっとこれは、スザクがシャワーを浴びている間にそのまま眠ってしまって見ている夢に違いない。夢でなければ、スザクが好きだと告白してくるはずがない。
「……ルルーシュ?」
「――寝る」
「ええっ!?」
 夢の中でも寝られるのか分からないが、とにかくこんな馬鹿げた夢は終わらせてしまえと。半分自棄になりながら、拘束が緩んだのを狙ってスザクの腕を振り払ったルルーシュは、布団をまくった。
 なんでと、寝ようとするのを邪魔するスザクの手を、ルルーシュはパシリと払いのけた。ひどく傷ついた表情をするスザクの顔が見られなくて、顔を背けながらルルーシュは涙ぐむ。
 なんの冗談だろう。
 それも、こんなときに。
「なんで、なんで、そんなこと……っ!?」
 夢だとしても、現実だとしても、辛かった。


「俺のことだけ忘れたくせに!!」


 今までずっと堪えていたものが爆発する。
 手に触れていた枕をつかんで投げつければ、今度は避けることなくスザクは受け止めた。
「ルルーシュ……」
「俺のことだけ忘れて! 俺との約束も、覚えてなかったくせに!!」
 振られるのを覚悟で、あの日ルルーシュはスザクに告白しようとした。途中、軍から呼び出しを受けたことで告白はできなかったが、それでもまた今度とスザクはそう言ってあの日は別れた。
 だから、ずっと待っていた。
 それなのに次に会ったときにはなにもかも忘れていたスザクに、好きだと言われても信じられるはずがない。他のことは覚えているのに、自分のことだけは忘れてしまった相手のことなど。
「ルルーシュ、約束ってなに? 僕は君とどんな約束をしたの? お願い、教えてっ」
 ギュッと拳を握りしめていたルルーシュの手へと、スザクはそっと触れる。
「……最後に、お前が記憶を失う前に、ちょっと話したいことがあって。でも、軍から呼び出しを受けたお前は、また今度ってそう言ったのにっ」
 こちらの返事を聞くことなく駆けだしていった背中を、ルルーシュはただ見つめることしかできなかった。まさか次に会ったときには記憶を失っているとは思わずに。
「ごめん、ルルーシュ。君のことだけを忘れて、傷つけて、ごめん。でも、信じてほしい。君のことは本気で好きなんだ」
「スザ、ク……」
「多分、記憶を失う前の僕も、君のことが好きだったはずだよ」
「なんで、そんなことが分かるんだっ」
 記憶がないのに分かるはずがない。それとも、記憶を取り戻したのだろうか。
「だって、君のことだけを忘れちゃったから」
 意味が分からないと返せば、くすりと笑われた。
「記憶を失う前に、強く君のことを思っていたんだと思うんだ。だから、君のことだけを忘れてしまったんだと僕は思ってる」
「俺のことを……?」
「君のことだから、僕が怪我をしたらひどく心配するだろう?」
「当たり前だ!」
「だからだよ。きっと頭をぶつけたときに、ルルーシュを心配させるって僕なら思ったはずだ。君のことを最後まで考えて意識を失ったから、多分それで」
 まさかそんな理由で忘れられたのかと、ルルーシュは呆然とする。
「ルルーシュのことだけ忘れてごめん。でも、好きなんだ。迷惑だって、気持ち悪いって言うんだったら、やっぱり僕は帰るよ。でも、傍にいてほしいって言うなら、朝まで一緒にいるけど、一緒には寝られない」
「どうして……?」
 一緒にはいてくれるのに同じベッドでは寝られないと言うスザクに、好きだと言ってきたのは一緒に寝ないための嘘なのではないかとルルーシュは疑心暗鬼になる。そんな思いを感じ取ったのか、まいったなとスザクは首の後ろをかいた。
「ルルーシュ、僕は君のことが好きなんだよ」
「それは何度も聞いた」
「僕は好きな相手と同じベッドで、ただ一緒に寝ていられるような年齢でも、できた人間でもないんだけど」
「ス、スザク……!?」
 狼狽え始めたルルーシュに、ようやく気づいてくれたかとスザクはため息をつく。
「ま、まさか、お前、俺のことを――!」
「抱きたいって思ってるよ」
 人懐っこい、セックスのことなどなにも知らなそうな顔をして、あっさりと抱きたいと言うスザクに、ルルーシュは焦る。
 付き合いだしたら、そういった関係になるのは不思議なことではない。むしろまともな性欲を持った男なら、そういった関係にならない方が不自然だ。
 ただ、まだ告白されてルルーシュは返事をしていない。その状況で抱きたいと言われ、スザクとそういう関係になるとは考えてもいなかったルルーシュはパニックになっていた。
 スザクのことだ好きだ。他の誰にも取られたくない。もしもスザクに恋人ができたらと考えただけで、嫉妬で気が狂いそうだった。
 元々性欲は薄く、あまり関心もなかったこともあり、改めて考えてみたルルーシュはこれといったイメージこそ湧かなかったが、嫌だとは思わなかった。
「ルルーシュ、もしかして経験ないの?」
 本当のこととはいえ、C.C.から童貞坊やなどと度々からかわれていた。、まさかスザクにまでそれを指摘される日が来ようとは。ふるふると体を震わせながら、ルルーシュはスザクを睨み付けた。
「うるさい! 経験がなかったらどうだって言うんだ! そういうお前だって――っ」
「僕? 経験ならあるよ」
「えっ?」
 信じられないと、ルルーシュは目を丸くする。
 自分と同じように経験がないものだと思っていただけに、経験があると知ってルルーシュは愕然とする。
「恋人、いたのか……?」
 長いことお互いの生存すら分からずにいた間のことは、お互い簡単にしか話していなかった。恋人がいたとしたら、その間のことだろう。
 再会してからは恋人がいるような素振りは見えず、そんな話は一度も聞いたことがない。
「過去に何人か付き合った女性はいたけど、全員オレンジ事件よりずっと前の話だよ」
 あっさりと打ち明けたスザクに付き合っていた女性が、それも複数いたことを知ったルルーシュは青ざめる。
 スザクの話が本当なら、過去に付き合っていた女性は全員、再会する前の話だ。文句を言う資格はないと分かっていても、嫉妬で気がおかしくなりそうだった。
「ル、ルルーシュ?」
 うつむきながら肩を震わせれば、心配したスザクが顔を覗き込む。
 馬鹿な理由で自分のことを忘れてしまっただけでも腹立たしいのに、過去に複数の恋人がいたこともまたルルーシュの怒りに拍車をかける。
 リヴァルとの会話で度々女の子の話が出たときでさえ、過去に恋人がいるような素振りは全く見せなかった。そのときにでも恋人がいたことを話してくれれば、そのときはショックを受けただろうが、ここまで腹を立てなかったはずだ。
 すぐ目の前にあるスザクの顔に腹を立てながら、悔しいやら悲しいやら、わけの分からない感情が渦巻いて、ルルーシュは衝動的に口づけていた。
「ル、ル、ル、ルルーシュ!?」
 噛みつく勢いで唇に口づけたルルーシュの突然の暴挙に慌ててベッドから降りたスザクは、壁際まで後ずさった。ひどく動揺しているスザクに、満足感を得たルルーシュはくすりと笑う。
「……ルルーシュ、さっきのはなんだったの?」
 機嫌を損ねたスザクに、ルルーシュは唇を尖らせる。
「だって、スザクが悪い!」
 我ながら幼稚っぽい言動だと思いながらも、スザクが悪いのだから仕方がない。意味が分からないと顔をしかめたスザクに、少し癪にさわった。
 こんなにも辛くて、悲しくて、腹立たしいやら、わけが分からない状況にしているのはスザクなのに。当の本人とくれば、相変わらずの鈍感さを発揮して気づいてさえいない。
「あの日だって、告白しようと思ってお前を呼び出したのに! なのに、お前は……っ」
「ルルーシュ、それってっ」
 目を見開いたスザクは、額を押さえながら信じられないと呟く。
「お前が好きだ、スザク」
 もっと早くに告白するつもりだった。ようやく告白ができたことで、胸が少し軽くなる。
「……両思いだったってこと?」
「そうみたいだな。振られる心配をして、損をした気分だ」
 振られるのを覚悟していただけに、まさか両思いだったとは。散々悩んでいたことが少しだけ馬鹿らしくなる。
 過去に付き合っていた恋人が複数いたことも発覚したが、それは追々追求するつもりだ。
「いつから僕を……?」
「気づいたのは再会してすぐだったが、多分ずっと昔からお前のことが好きだったと思う。そういうお前は?」
「今の僕は一目惚れだよ。でも、良いの?」
「なにがだ?」
「僕は君のことを忘れた上に、もしかしたらルルーシュの知っている枢木スザクじゃないかもしれないよ」
 ひとり分とはいえ記憶を失ったことにより、今まで枢木スザクを構築していたものが一部が消えてしまっている。以前とは多少違っていてもおかしくはなく、それでも良いのかと尋ねるスザクに、馬鹿だなとルルーシュは笑う。
「スザクはスザクだ。それに、お前は俺の知っているスザクとちっとも変わらないよ」
 鈍感なところも、お人好しなところも、なにひとつ変わっていないと。だからこそ余計に憎くも思えた。
 自分の知っているスザクのままなのに、自分のことだけを覚えていない。少しでも違うところがあれば、あれはスザクではないと納得できたのに、そうはさせてくれなかった。
 そんなスザクが憎くて、でも好きで――。
「愛してる、スザク」
「僕も愛してるよ、ルルーシュ」
 頬に伸びてきた手に、そっと目蓋を伏せたルルーシュは、降りてくる唇を受け入れた。



「――は、早くないか?」
 気がつけばベッドへと押し倒されていたルルーシュは、血の気が引いた顔で尋ねる。
 なにがどうなれば、ベッドへと押し倒されるような状況になるのか。その前に、告白して恋人になったばかりだというのに、そういう関係になっても良いものだろうか。経験がないだけに、全く分からない。
「そうかな?」
 首を傾げるスザクに、ルルーシュは言い募る。
「そ、そうだ! それに、お前は経験があるかもしれないが、俺は全くないんだぞ!!」
 偉そうに言えることではないが、なんとしてでも今の状況からルルーシュは逃げ出したくて必死だった。
「大丈夫。やさしくするから」
「そういう問題じゃない! それに、どうして俺が下なんだ!?」
「騎乗位が良かった? でも、初めてなら正常位かバックからのが良いと思うけど」
「そういうことじゃない!」
 馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、どうしてここまで馬鹿なのか。顔を赤くしながら、ルルーシュはのし掛かるスザクを怒鳴りつける。
「えー。でもルルーシュって経験がないんでしょう? なら、僕に任せてよ。それとも僕を抱きたかった?」
 それなら考えなくもないけどと険しい顔をしながらも尋ねるスザクに、ルルーシュは黙り込む。
 相談もなく勝手に女性役をさせられるのは腹が立つが、だからといってスザクを抱きたいとは思えない。スザクを抱くことを想像してみたが、気持ち悪くなったルルーシュは即座に考えることを放棄した。
「……絶対に無理だ」
「なら、ね?」
 にっこりと微笑みながらバスローブの合わせ目へと手を伸ばすスザクに、ルルーシュはうなり声を上げる。
「大好きだよ、ルルーシュ」
 口づけを受け入れながら、散々悩んだ末にルルーシュはスザクの背へと両手を回した。
「ルルーシュ?」
「やさしく、しろよ」
 真っ赤になっているであろう顔を背けながら、小さな声で呟く。顔を綻ばしたスザクは、いそいそとバスローブの結び目を解き、ルルーシュの肌をあらわにさせた。
「大丈夫。うんっとやさしくするから」
 耳元で甘くささやくスザクに、ぶるりと体が震える。そっと肌の上を這う手のひらにギュッと目を閉じれば、がぶりと耳朶を噛まれた。
「ス、スザクっ」
 未知の経験に恐怖を感じ始めたルルーシュは、やっぱりやめようと縋ったが、大丈夫だと額に口づけられた。
「ルルーシュ、好きだ」
 卑怯だ。
 そんな風に言われたら、抗えるはずもないのに。
 涙が滲む目でスザクを睨み付ければ、苦笑された。
「逆効果だよ、ルルーシュ」
 仕方がないなと呟きながら口づけたスザクは、歯列を割るように舌を口腔へと差し込んだ。口腔を嬲るように舌を絡ませる感触に、ぞくりと背中が粟立つ。
 口づけながらそっと下半身へと移動した肌を這う手のひらは、中心部分を絡めるようにやさしく触れる。根元から先端を嬲るように少しずつ力を込めてなぞれば、とろりと先端から蜜がこぼれ落ちてきた。
 ようやく唇を離せば息が切れ切れになっていたルルーシュは、恥ずかしさに視線をさまよわせる。
「ス、スザク……っ」
「大丈夫だから」
 かすかに怯えが見えるルルーシュに涙がにじむ目尻へと口づけながら、スザクはこぼれ落ちる蜜を絡ませた指を一本、奥深くに隠された蕾へと伸ばした。皺の一本一本を確認するように触れてから、ゆっくりと蕾へと押し込めば、短い悲鳴がルルーシュの唇からこぼれた。
「ルルーシュ、痛かった?」
「い、痛くはないと思う。でも――」
「でも?」
「……変な感じだ」
 女性のように受け入れるような器官ではないそこに、指一本とはいえ挿入するのは難しい。滑りが良くなるオイルのようなものがあれば良いが、そういったものは準備していなかった。
 なにかを考え込んだスザクは、押し入れたばかりの指をゆっくり引き抜くと、ルルーシュの下半身へと顔を埋めた。
「ス、スザク!?」
 腕の力も使い体をわずかに起こしたルルーシュは、次の瞬間中心部の奥に感じたぬるりとした感触に目を瞠った。
「スザク、そんなところを舐めるな!」
「えー、なんで?」
「汚いだろう!」
「そんなことないよ」
 ぺろりと蕾をもう一度舐めたスザクに、ルルーシュは後ずさる。
「スザク、やめろ!」
 風呂に入ったばかりとはいえ、排泄器官である場所は舐めても良い場所ではない。なにより羞恥心で死ねそうなぐらいに恥ずかしい。
「でも、濡らさないと痛いよ」
「で、でも、舐められるのは嫌だ!」
「それは我慢して。君に痛い思いはさせたくはないんだ」
 言いながら、今度はルルーシュが逃げ出さないようにがっちりと体を押さえ込んだスザクは、再びルルーシュの下半身へと顔を埋めた。
「ス、スザク!」
 嫌だとルルーシュは暴れるが、がっちりと押さえ込まれ、びくともしない。そうこうしているうちに、ぬるりと舌で蕾を舐められた。
 たっぷりと唾液で入り口を濡らしてから、スザクはゆっくりと舌を押し入れれば、押さえ込んだ体がびくりと震える。か細い声を上げてギュッとシーツを握りしめながら、ルルーシュは懸命に耐えた。
 余すことなく唾液で濡れた蕾から舌を抜き取ったスザクは、押さえ込んでいた体を解放してから指を二本、蕾へと押し入れた。舌で散々慣らした蕾は、難なく指を二本呑み込む。解すように中の指を動かせば、苦痛の吐息に混じって、甘い喘ぎ声がこぼれ落ちた。
「んっ……」
「気持ちいい?」
 その問いには答えず、ルルーシュはキッとスザクを睨み付ける。反抗的な態度のルルーシュに小さく笑いながら、スザクは指をもう一本増やした。
 くっと苦痛の声を上げたルルーシュに、スザクは増えた指を慎重に奥へと押し込む。
「ゆっくり息を吐いて。――そう」
 指を三本呑み込んだ蕾はひっそりと色づき、ぐっときつく指を締め付ける。蕾に馴染むように小刻みに揺らせば、艶やかな喘ぎ声をルルーシュは洩らした。
「やっ、スザク……っ」
 やだっと頭を振るルルーシュに、小刻みに揺らしていた指をバラバラに動かせば、艶やかに色づいた唇から嬌声が上がった。
「ああ……っ」
 ついにはぐすりと泣き出したルルーシュに、蕾から指を引き抜いたスザクは、赤く色づいた体を抱きしめる。
「……スザクっ」
 初めてで右も左も分からない状況下、嫌だと訴えてもとまらずに無理矢理与えられる快楽がひどく怖かった。感情が高ぶってどう伝えれば良いのかと混乱するルルーシュに、シーツを握りしめていた手をスザクはそっと解き、指を絡める。
「大丈夫。傍にいるから」
 やさしく髪を梳きながら、ルルーシュの額や目尻、頬へとスザクは何度も口づける。
 強張っていた体から力が抜けると、スザクは昂ぶった欲望を蕾へと宛がう。あっとルルーシュが声を上げる暇もなく奥深くまで欲望を突き入れた。
 苦しそうに喘ぐルルーシュに揺さぶりたい衝動を堪えながら、スザクは蕾が欲望に馴染むのをぐっと堪える。ギチギチと欲望を締め付けていた蕾も、少しずつ花開いていく。
「……スザクっ」
 ひどいと、無理矢理欲望を押し込んだスザクをルルーシュは涙目で睨み付ける。
「ごめん、ルルーシュ。でも、ほらっ。繋がってるよ」
 分かると小さく腰を揺するスザクに、顔が赤くなるのが分かる。まさか両思いだと知ってすぐにこんな関係になるなんて。信じられない思いで、ルルーシュは接合部分へと恐る恐る視線を向ける。
「ス、スザクっ」
「んっ?」
「……繋がってる」
 少しでも力を入れれば、スザクの欲望をリアルに感じ取られる。感じたことのない感覚に戸惑いながらも、恥ずかしさと嬉しさが混じり合い、まともにスザクの顔が見られなかった。
 ちらりと顔を窺えば、雄の匂いをさせたスザクにドクリと胸が高鳴る。
「……ルルーシュ」
 もう良いよねと、返事を待たずに腰に手を伸ばしたスザクは、今にも折れてしまいそうな華奢な腰を抱え上げる。
「ひっ」
 ギリギリまで欲望を引き抜いたスザクは、奥深くまで力強く打ち付けた。こぼれ落ちる悲鳴は苦痛とは違う艶やかな嬌声に、痛みだけではなく、快楽をルルーシュがきちんと感じ取っているのが分かる。
「あっ、スザク……っ」
 ぐちゅぐちゅと、結合部分から卑猥な音が漏れる。
 激しい動きについていけないと、手を伸ばしたルルーシュは必死にスザクの首へと両腕を回して縋り付いた。縋り付いたことで角度が変わった欲望は、より一層深く繋がり、奥深くを抉る。
「あ、っ……ぁ、ん」
「ルルーシュ、気持ちいよ」
 かぷりとルルーシュの耳朶へと歯を立てたスザクは、腰を突き動かしながら歯を立てた場所をねっとりと舐めた。それすらも快感を知ったばかりの体は、耐えられないと小刻みに震える。
 限界が近いことを訴える体に、激しく腰を突き上げていたスザクは動きをとめた。
「やっ、スザク……っ」
 解放が近かったルルーシュは、急な失速で熱の放出場所を失う。恥ずかしさなど忘れて、動いてほしいと涙声で訴えれば、スザクは笑みを浮かべながら下唇へと歯を立てた。
「気持ちいい、ルルーシュ?」
「うん、良いから……っ!」
 動いてと必死に縋るルルーシュに、スザクは小刻みに腰を揺する。
「……スザクっ!」
 違うと淫らに自分から腰を揺すりながら、足を体に絡ませたルルーシュに、スザクは息を呑む。くそっと小さく吐き出したスザクは、ルルーシュの腰を抱え直すと、奥深くを抉るように突き始めた。
 ようやく得られた望む快楽だったが、激しくなっていく動きに、ルルーシュは泣きじゃくりながら嬌声を上げる。それでも、奥深くに感じるスザクの感触に、恐怖よりも喜びが勝った。
 必死にスザクの首へと縋り付きながら、くっと寄せられたスザクの眉に喉がひどく渇く。
「やっ……ああ」
 もうなにも考えられない。
 与えられる快楽にひたすら嬌声を上げながら、スザクの名前を呼び続ければ、貪るように激しく口づけられた。呼吸すらままならないほどの激しい口づけに、ルルーシュは中にある欲望をぎゅっと締め付ける。
「……あぁ、んっ…、スザクっ」
 体がバラバラになりそうなほどに、さらに激しくスザクは腰を打ち付ける。苦しそうにその顔を歪めた次の瞬間、蕾の奥へと白濁が叩き付けられた。
「あ、ああぁっ」
 奥深くに感じた衝撃に、スザクの腹に当たっていたルルーシュの欲望も白濁を吐き出していた。




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