もふもふ




 ずっしりと重たいものがのし掛かってきた感覚に、夢も見ずに布団で眠っていた小狐丸は目を覚ました。
「……三日月か。朝からどうした?」
 目を開けた小狐丸は、周囲を見渡す前にずっしりと重くのし掛かってきた正体を確認するなり、布団の上から自分にのし掛かるようにして顔を覗き込んでいる兄弟刀である三日月にため息混じりに尋ねた。
 障子から差し込む光から、すでに朝を迎えているのだろうが、滅多なことでは狂うことのない体内時計を伺う限りまだ朝食には早い。本日は任務もなく、丸一日休みを与えられていることもあって、こんな朝早くから起こされる理由は小狐丸にはなかった。
 こんな朝早くから一体どうしたのだと。不思議がる小狐丸に、三日月はにっこりと笑う。
「あなた、ト○ロっていうのね」
 あまりにも唐突な台詞に虚を衝かれた小狐丸は、三日月を体の上に乗せたまま深々とため息をついた。
「今度は一体、なにを見たのだ?」
 審神主が本丸へと持ち込んだテレビとやらで、短刀たちと共にアニメというものを見るたびに、こうして小狐丸にそのシーンを再現するのは最早見慣れた光景だった。今度は一体どんなアニメを見たのかと呆れながらも、楽しそうな三日月に小狐丸は大人しく付き合うことにした。
「こーんな大きな、不思議な動物にな」
 言いながら、三日月は大きく両手を広げる。
「抱きついている幼女の話だ」
 楽しかったぞとにこにこと告げる三日月に、小狐丸はそうかと小さく頷く。
 いまいち話の内容は分からなかったが、三日月が楽しかったというのならそれで十分だった。大体にして三日月がまともに説明して理解できた試しはこれまで一度としてない。どんな話だったのかと詳しく知りたいなら、薬研辺りに後から聞いた方が分かりやすかった。
「もふもふしていて気持ち良さそうだった。主にあれはどこに住んでいるのかと尋ねたのだが、あれは架空の生物らしい」
 残念だと言いながら、小狐丸の髪を三日月はクルクルと指先で弄る。
「五虎退の虎かこんのすけを後で触りに行くか?」
 もふもふに触れたいと呟く三日月に、小狐丸はそうだなと身近にいるもふもふを例に挙げる。
「うん! そうだな! そうしよう!」
 この本丸でもふもふと言えば、五虎退の虎かこんのすけのどちらかだ。先に見つけた方を存分に触らせてもらえれば三日月の欲求も収まるだろうと提案すれば、それもそうだなとすぐさま笑顔になった。
「そうと決まれば、五虎退かこんのすけを探しに行こう、小狐」
「私も一緒か?」
「当たり前だろう?」
 なにをおかしなことをと。くすくすと楽しげに笑う三日月に、ならば付き合うかと小狐丸は体を起こした。