■夜更け
布団の上に四つんばいになりながら背後から穿たれていた三日月は、果てると同時にぐったりと四肢から力を抜く。肌をつたう汗は気持ち悪かったが、肌に貼り付くシーツの冷たさは実に心地がよかった。
火照る体を冷やしてくれるシーツに全身を擦りつけたいというのに、いまだがっちりと腰をつかんで離さない小狐丸にそれも敵わない。
「小狐、いい加減離せっ」
腰だけを小狐丸に無理矢理掲げられた格好のまま振り返った三日月は、小狐丸をきつく睨み付ける。
つい先刻まで散々乱れ、喘ぎ声をこぼしていた三日月とは到底同一人物とは思えないほどの変わりようにも、慣れた小狐丸は驚かない。むしろ、いまだ繋がっているというのに強気な三日月に口元に笑みを浮かべる。
「本当に兄上さまは、事が終わると冷たい」
「いつまでも引っ付いていたくないだけだ。それより、中に出したなっ! あれほど中には出すなと言っただろう!!」
いまだ繋がったままの状態に、三日月は怒りをあらわにする。
「仕方がないではありませんか。兄上さまの中は実に心地よく、抜こうとしようとすると締め付けてくるのですから」
「なっ!?」
こともなげにひょうひょうと告げる小狐丸に、三日月は顔を真っ赤にさせる。
「安心して下さい。中に出したものはこの小狐丸、きちんと綺麗に掻き出しますから」
「それが嫌だと言っているのだ! それに、一度逝くと中々抜けなくなるのも嫌だと言ってるだろうっ」
人のうつし身を持つというのに、小狐丸は一度射精をすると先端が膨らみ、雄が抜けにくくなる。一度無理に抜こうとしてみたが、結局は抜けずに終わった。大体10分から15分、長いときは30分も先端が元に戻るのを待たなければならない。
その間まるで獣のように細切れに射精は続き、三日月のお腹はぷくりと膨れる。それだけでも嫌だと言うのに、栓の代わりとなっていた小狐丸の雄が後腔からずるりと抜かれると同時に、中に吐き出された白濁がまるで粗相をしたかのようにこぼれるのが特に三日月は嫌だった。
それを小狐丸も知っているというのに、射精するとき決して雄を抜こうとしない。散々三日月が嫌だと、外に出せと訴えても、獣の本能ゆえか、小狐丸は必ず中で射精する。
以前一度、小狐丸が態度を改めるまでは同衾しないと決意したこともあったが、いつの間にかなし崩しに同衾する嵌めになっていた。悲しげに兄上さまと呼ばれると弱いことを知っている小狐丸の作戦勝ちではあったが、以来三日月は無駄な抵抗はやめた。
「獣ゆえ、仕方がないではないですか」
「ならば中には出すな」
「中に出すまで締め付けて離さないのは兄上さまなのに?」
三日月の背にぴたりと胸をつけ、小狐丸は耳元で楽しげにささやく。
カッと耳まで赤く染まるのを、小狐丸はひどく満足げに眺めていた。
「小狐っ」
「ああ、そんなに怒らないでください、兄上さま。代わりに、満足するまで噛んで差し上げます」
宣言通り小狐丸は三日月の肩に、軽く噛みつく。
びくりと揺れる体は再び熱を持ち始め、三日月はこぼれ落ちそうになった声を慌てて口を片手で押さえて呑み込んだ。
「噛まれるの、お好きでしょう」
軽く歯形がつくぐらいに噛むと三日月が喜ぶのは、始めて同衾したときから気づいていた。時に自分から噛んで欲しいと強請る三日月に、白い肌のあちこちに自分の存在を刻み込むかのように、小狐丸は歯形を付けていた。
今日もまた三日月の体のあちこちに、小狐丸の歯形が刻まれていた。今日はまだ噛んでいなかった肩を軽く噛んでみせれば、小狐丸は欲望に濡れた目で睨み付けられた。
「ねえ、兄上さま。夜はまだ長い。そうは思いませぬか?」
艶やかに微笑む小狐丸に、三日月は視線をさまよわせる。
こうなってしまえば最早抵抗は無駄だと知ってはいるけれど、三日月は必死に形ばかり抗ってみせる。
「小狐丸……っ」
「ねえ、兄上さま」
くっと息を呑んだ三日月は、抗うのをやめた。
「もっと噛むか?」
「兄上さまが望むがままに」
深く唇を重ね合いながら、小狐丸はいまだ膨れて射精を続ける雄を三日月の後腔へとぐっとさらに奥へ、奥へと押しつけた。