ハロウィン
「オルガ。トリック・オア・トリート」
出会い頭に真っ直ぐ見つめて来たかと思えば、呪文を唱えた三日月にオルガは目を瞬かせる。
「なんだ、ミカ。チビどもの真似か?」
地球のどこかの祝い事だと、どこからか仕入れて来たシノの手によって鉄華団では年少組で菓子のやりとりが流行っていた。詳しいことはよく分からないが、楽しそうな子どもたちに、今のところ問題も起こっていないこともあってオルガは好きにさせていた。
殺伐とした中にも、楽しさは必要だ。時に楽しい思チい出が、過酷な現場での生きる糧にもなる。
かく言うオルガもまた、楽しそうな年少組のためにチョコや飴を常備していた。戸惑いながらにも声を掛けにくる年少組の頭を一撫でしてから、常備しているチョコや飴を上げていた。そのせいか近頃、年少組から声を掛けられる頻度が増えた。
年少組の子どもたちにとってオルガかくれるチョコや飴よりも、頭を撫でてもらえることのが嬉しいのだと本人だけが気づいていない。
「うん。だからオルガ、お菓子をちょうだい」
自由に動かせる左手を差し出した三日月に、仕方がないなあと苦笑しながらオルガはお菓子を詰めていたポケットを探る。
「あれ?」
たくさんお菓子を詰めたはずのポケットには、何も入っていなかった。先ほど声をかけられたときに全部配り終わったらしい。
「ミカ、わりい。もう今日の分の菓子はさっき配り終わってた」
「お菓子ないの?」
「ああ」
「なら仕方がないか」
あっさりと諦めてくれた三日月にわりいと謝ろうとしたオルガは、吐き出そうとした言葉もろとも急に手を伸ばして頭を引き寄せた三日月によって唇に吸い取られた。
すぐに離れたとはいえ、誰が通るとも分からない通路で何をするのだと、オルガは慌てて三日月から距離を取った。
「ミカ!」
「なに、オルガ」
怒るオルガに、三日月は怒られる理由が分からなかった。
「なんでこんなとこでっ!」
「え? だって、お菓子を貰えなかったら、その相手にイタズラするんてしょう? だから?」
違うのと首を傾げる三日月に、オルガは息を詰まらせる。
「……それは誰から聞いた?」
「シノ」
「分かった。怒って悪かったな、ミカ。ただ、ああいうイタズラは他でするな」
「うん、分かった。オルガがそういうなら他ではしない」
基本、オルガのいうことなら素直に聞く三日月は素直に頷いた。