クーデリア・藍那・バーンスタインを火星から地球へと送り届け、見事ハーフメタル権利を獲得するという初任務というべき仕事を見事にやり遂げた鉄華団は、テイワズの直系傘下という立場を手に入れた。火星の一組織、それもいつ消えてもおかしくはなかった弱小組織の一躍大出世に、人が集まってくるのは自然の成り行きだった。
 元から人手が足りなかった組織にとって、新たな人材は大いに助かる事態ではあったが、人が増えると言うことは、それだけ仕事もまた増えると言うことだ。鉄華団の団長であるオルガ・イツカは、日々増えていく雑務に忙殺されようとしていた。
 ユージンと共に廊下を歩きながら簡単な打ち合わせをしていたオルガは、偶然ばったりと出くわした三日月に頬を緩ませる。
「ミカ」
「あ、オルガ」
 決済が迫った書類が山積みになっていたこともあって、ここ数日三日月とはまともに顔を合わせていなかった。以前ならあり得なかったことではあるが、それだけ鉄華団という組織が大きくなった証拠でもある。それを嬉しく思う反面、寂しくもあった。
「これから昼飯か?」
「うん。オルガは?」
「俺はもう少ししてから食うよ」
 朝からなにも食べていなかったが、今は食事を取る時間も惜しかった。なにより今日は、朝から食欲がないこともあって自然と食事が後回しになっていた。後からきちんと食べるからと言い訳するオルガを、三日月はじっと見つめる。
「どうした、ミカ?」
 物言いたげな目に、どうしたのだとオルガは小首を傾げた。
「オルガ、今日は休めないの?」
「なんだ、急に?」
「だってオルガ、熱あるよね」
 疑問系ではなく、断定した物言いに隣に立っていたユージンが慌ててオルガの額へと手を伸ばした。
「あつっ! お前、この熱で仕事してたのかよ!」
 馬鹿かと怒鳴りつけるユージンに、オルガは首をすくめる。確かに朝から体がだるいとは思っていたが、こんなものは慣れたものだ。CGS時代は熱を出そうかなにをしようか、休みの日以外に休むことは許されていなかった。
「お前、今日はもう休め」
「けど、ユージン、仕事が……」
「仕事なんて他の奴らにやらせろ! お前に倒れられる方が面倒だ!」
 そう言われてしまえば、休まないわけにもいかない。渋々とではあるがオルガは大人しく頷く。
「けど、良く熱があるって分かったな」
 先に一緒にいたユージンは、いつもと変わらない様子のオルガに熱を出していることなど気づかなかった。良く気づいたなと感心するユージンに、三日月は首を傾げた。
「そう? 遠目からでもオルガの体調が悪そうだなって分かったけど」
 流石誰よりもオルガのことを見ているだけあると、ユージンは呆れ返った。