――鋭い痛みが、体を貫く。











■途切れた想い











 いつもより重たい目蓋を開ければ、すぐ目の前に昔愛した女性がいた。
 それが、とても嬉しい。
「やあ、タリア。撃ったのは君か?」
 間違いを正すために、彼女なら自分を撃つだろう。
 そう思っての問いだった。
 だから返ってきた答えに、酷く驚かされた。
「いえ。レイよ」


 ――まさか!?


 そう思うのと同時に、だが、それこそが正しい答えのような気がした。
 その立場こそ違うが、レイこそがキラ・ヤマトに誰よりも近い存在だ。
 ナチュラルでも、コーディネイターでもない存在。
 そのキラの言葉に、きっとレイは突き動かされたのだろう。
 何よりも欲しい言葉を、他の誰でもないキラから聞かされたから。
 他の誰かでは駄目なのだ。
 ある意味同じ存在だと言えるキラだからこそ、レイの心は動いた。
「ギル、ごめんな、さい。でも、彼も……明日は!」
 泣きじゃくる養い子の言葉に、自分の考えが正しかったことを知る。
 レイに対して、落胆や怒りはない。
 ただ、どこかで安堵する自分に奇妙さを抱きながら、デュランダルは動かない躰に苛立つ。
 今すぐにでも泣いているレイの元へと駆け寄って、怒ってなどいないのだと教えてやりたいのに、自分の躰ではないかのように動かない。
 泣くレイなど見たくないのに。
 彼にはいつも笑っていて欲しいのに。



「レイを、お願いね」
 血が足りないのだろう。
 朦朧とした意識の中、微かに聞こえる声に耳を傾ける。
「……タリア?」
「レイは彼と一緒に行ったわ」
「そうか……」
 それで、良い。
 あの子は今死ぬべき存在ではない。
「寂しい?」
「何のことだ?」
「嘘つきな人ね。最後ぐらい、寂しいって言っても良いのよ」
 彼女には本当に敵わない。
 傍らにキラ・ヤマトがいるならば、きっと私では与えられなかったものを得ることができることだろう。
 そうしてたくさんのものを得たレイは、いつかきっと私のことなど忘れてしまうだろう。
 それが、寂しかった。
「大丈夫よ。あの子は絶対にあなたのことを忘れたりしない」
「タリア……」
「だって、あの子をあそこまで育てたのは他の誰でもないあなただわ。私でも、彼でもない」
 今でも良く覚えている。
 まだ小さかったレイを引き取った時のことを。


 ――ギル?


 舌足らずに私の名前を呼んで、不思議そうに首を傾げた小さな、小さな養い子。
 初めて名前を呼んでもらえた時、本当に嬉しくて。
 あんなにも小さかったあの子が、今ではあんなにも大きくなってしまった。
 そして、今では私の手を離れ、ひとりで歩もうとしている。
「なあ、タリア」
「なに?」
「私は今でも、あの子を引き取って、育てたことを後悔してないよ」


 ――養い子の手によって撃たれた今でも。


「知っているわ」
「タリア、愛しているよ」
 でも、一番に愛しているのは――。
「私もあなたを愛しているわ。2番目に」
「……君は、手厳しいな」
「当然でしょう」
 優しく微笑むタリアに、ゆっくりと目蓋を閉じる。
「タリア……もう、疲れたよ」
 声を出すことすら、もう億劫で。
「本当に仕方のない人ね。私が側についていてあげるから、もうお休みなさい」
 クスクスと笑いながら、タリアはデュランダルの頬を優しく撫でる。





 私の子、レイ。
 君を、誰よりも愛しているよ。