■プレゼント
物資の搬入のため、ミネルバは近くの基地へと寄港した。
基地へと寄港してから数日後、その日、生活必需品のいくつかが切れかかっていることに気がついたキラは、勤務が終了すると同時に、艦から降りた。
基地内にはいくつか店があり、そこで足りないものを買い足そうと基地内を歩いていたキラは、見知らぬ女性兵士に突然呼び止められた。
「――ヒビキ隊長、あの……っ」
「何か?」
ミネルバのクルーの顔は、全員覚えている。
では、誰かと考えて、女性兵士が手に持っているものにキラは気がつく。
「これ、貰って下さい!」
手渡されたそれを、突然だったこともあり、キラは思わず受け取ってしまった。
あまりにも突然のプレゼントに混乱していたキラは、女性にその真意を問いただそうとした頃には、すでに女性の姿はどこにも見受けられなかった。
ただ静かに、プレゼントだけが、キラの掌で存在を主張していた。
「あれ、隊長?」
手にあるものをどうしようかと悩んでいれば、キラにとって一番の問題児がどうかしたのかと唐突に声をかけてきた。
「隊長、その手に持っている奴って、もしかして……」
問題児――シンが、手の中で静かに自分の存在を主張しているプレゼントへと、視線を落とす。
「さっき、いきなり女性に渡された。今日は何かあったっけ?」
自分の誕生日ならまだしも、今日は特に何もない日だとキラは記憶していた。
それだけに、困惑は大きい。
「――隊長、もしかして本気で言ってます?」
信じられないと言いたげなシンに、キラは苛立つ。
見知らぬ女性からプレゼントを貰う覚えなど全くなく、だから今日何かあるのかとも考えるが、思い当たるものが全くない。
だからシンへと尋ねたというのに。
答えを知っているのに、答えを教えないシンへとキラは苛立ちをぶつける。
「だから、何?」
不機嫌であることを隠すことをしないキラに、シンは慌てる。
過去幾度もキラの機嫌を損ね、いたぶられた記憶は真新しい。
下手にキラを刺激などしないように、慌てて答えを教えた。
「今日ってバレンタインですよ」
「ああ、そういえば、そうだったね」
疑問は解決したこともあり、キラはシンを置いて、さっさと売店へと急いだ。
この日、キラがミネルバに戻ってきた時に、両手では抱えきれないぐらいのチョコを貰ってきたことで、一時ミネルバと基地内を騒がせた。