一緒に幸せになろう
「黒子っち、付き合って下さい!」
ふたりっきりになったタイミングで意を決した黄瀬は、思い切って黒子へと告白した。
振られるか、それとも気持ち悪いと蔑まれるか。黒子のことだから、できる限り傷つけないようにと断ってくるだろうなと考えていた黄瀬は、黒子と付き合えるとは思っていなかった。
そもそも告白したのも、いい加減この思いを諦めようという踏ん切りを付けるためだった。さあ、来いと振られる覚悟を決めた黄瀬は、ごくりと息を飲む。
「良いですよ」
「そうっスよね、俺なんてって、えっ?」
「付き合わないんですか?」
不思議そうに首を傾げる黒子に、頭の中にえっという単語しか浮かばない。目を何度か瞬かせた黄瀬は、自分の頬をぎゅうっと思いっきり抓った。
「黄瀬君っ!?」
「痛い。夢じゃない……」
何しているんですかと慌てる黒子に、黄瀬は呆然と呟く。
「えっと、あれ。もしかしていつ、どこに付き合うっていうパターンっスかっ!?」
そうだ。そうに違いないと、黄瀬はひとり納得する。
「あれ? どこかに出かけるのに付き合うだけだったんですか?」
明らかに落ち込んだ様子の黒子に、黄瀬は慌てる。
「えっ、あれっ? 黒子っちっ!?」
これは一体どういうことだろうか。頬を抓ってみれば、確かに感じた痛みにこれは夢ではなく現実だと教えてくれる。なのに、黒子に告白したというのに、振られるどころか色よい返事を返してくれた。
すでに季節は春が終わり、夏の到来を迎えようとしていたが、きっと明日は大雪が降ると黄瀬は確信を抱いた。
「……えっと、黒子っち、本気で俺と、付き合ってくれるんスか?」
恐る恐る尋ねれば、黒子は苦笑する。
「良いですよって言ったはずですよ」
「本当に、本当のっ!? あとで冗談だったっていうパターンでもなくっ!?」
「はい、もちろん。一度聞いてみたかったんですが、君が抱いている僕の中の黄瀬君に対するイメージって、どういうものなんですか?」
頷いた黒子は、一度はっきりさせておくべきだと尋ねる。
「うーん、我が儘な駄犬に仕方なく付き合ってくれているご主人様?」
まとわりついても、仕方なさそうに許してくれる黒子に、ふとそんなイメージが思い浮かぶ。この場合駄犬とは自分のことだけに、少しだけ黄瀬自身もダメージを受けた。
「それって僕にも君に対しても失礼だと思うんですが」
「やっ、だって黒子っち、俺に対して少し態度が酷いと思うんスけど」
メールを送っても、滅多に返事もくれない。久しぶりに会って抱きつこうと思えば、近くにいる誰かを盾にして避けられる。扱いが酷いことに慣れているとはいえ、だからと言って傷つかないはずがない。
「例えば?」
「メールを送っても、十回に一回も返事をくれないじゃないっスか」
「おはようはまだ良いですけど、学校に到着しましたとか、今日シュート何本決められたとか、お昼ご飯は何を食べたとかっていう報告に返信する必要はないと思いますけど。その前に、メールの数多すぎです。一日に五十件ものメール受信が当たり前というのが、そもそもおかしいということに気づいて下さい」
「えー、俺なら黒子っちの日常報告嬉しいっスけど」
「根本がまず違いましたね。それで、その次は?」
「抱きつこうとしたら、青峰っちなり火神っちなり盾にして避けるのをやめてほしいっス」
「それは、君が人前で抱きつこうとするから」
かすかに頬を赤くする黒子に、あれっと黄瀬は首を傾げる。
「もしかして黒子っち、人前で抱きつかれるの恥ずかしいんっスか?」
「世の中は、君みたいに羞恥心を捨てた人間ばかりじゃありません」
頬を膨らませる黒子に、胸がきゅんっと高鳴る。
「黒子っち、これからは人前では抱きつかないようにするっス! だから、あの、俺とお付き合いしてください」
「だから、良いですよって言っているじゃないですか」
くすくすと楽しげに笑う黒子に、もう我慢の限界だった。思いっきり抱きつけば、いつもと違って嫌がらない黒子に、黄瀬はぎゅうっと思いっきり抱きつく。
「黒子っち、好きっス」
「僕も君のこと、好きですよ」
「絶対黒子っちのこと、幸せにするっス!」
「黄瀬君、僕は君に幸せにしてもらうより、君と一緒に幸せになりたいです」
一方的な施しはいらないと。告げる黒子に、黄瀬は何度となく首を縦に振った。
「はいっス! 一緒に幸せになりましょう、黒子っち!!」