2月22日
「緑間君、おはようございますにゃん」
「ああ、おはよ、う……?」
普段と変わりない挨拶だと思い込んでいた緑間は、違和感に気づくのに一瞬遅れた。
数度目を瞬かせた緑間は、目の前に立つ黒子をじっと見つめる。動じることなく見つめ返してくる黒子に、あれは空耳だったのだろうかと、動揺する心を緑間は懸命に抑える。
「黒子」
「はい」
「いや、なんでもない」
問いただそうと一瞬思ったが、きっとあれは幻聴だったのだと。ひとり納得した緑間は自分に言い聞かせる。
「緑間、おはようにゃん!」
ピンッと片手を伸ばしながら元気よく挨拶する高尾の語尾に最早幻聴とは言えなかった。
「高尾」
がしりと。近寄ってきた高尾の頭を、緑間は思いっきり片手でつかんだ。
「いたっ! 真ちゃん痛いっ!」
マジで痛いから離して!と。本気で悲鳴を上げる高尾に、緑間は仕方なくつかんでいた頭から手を離した。
「どういうつもりだ、高尾」
「どういうつもりって、それはこっちの台詞!」
いきなりなにするんだよと、高尾は涙目で緑間を睨み付ける。
「貴様が犯人か」
「犯人? ああ、にゃんね」
なんのことだと顔をしかめた高尾は、すぐに答えを導き出した。そんなにも怒ることかと、思わず呆れ返る。
「なんだよー、かわいくなかった?」
「貴様は可愛くない」
「緑間ひでえ! でも、テっちゃんのはかわいかったんだにゃ」
にやにやと笑う高尾の頭を今度こそ握りつぶそうと手を伸ばすが、それよりも早く後方へと飛び退くように高尾は緑間と距離を取る。
「だからそれは、どういうつもりだ」
「どういうつもりって、今日は2月22日だぜ?」
「それがなんだ?」
「にゃーにゃーにゃーの日だろ? だから、語尾ににゃーって付けなきゃいけないんだぜ」
「というわけで、緑間君も付けてくださいにゃ」
真っ直ぐな目で見つめられながら黒子に促された緑間は言葉を詰まらせる。
「ほら、緑間もにゃーって」
黒子の背後からにやにやと笑いながら高尾もまた促す。
「誰が付けるか!」