朝
久々の休日――。
窓から差し込む日の光の眩しさに目を細めながら、黒子は目を覚ました。大きな欠伸をこぼしながら、何気なく横へと視線を向けた黒子はぎょっと目を剥いた。
緑間と高尾の朝は早い。休日だろうと、どれだけ体を酷使した翌日であろうと、いつも先に起き出して、黒子が目覚める頃にはふたりの姿がベッドにないことはザラだった。
てっきり今日もまたひとりっきりで目覚めたものだとばかり思っていた黒子は、隣で眠っている高尾の姿にまだ夢の中かと一瞬疑う。試しに頬を抓ってみれば、しっかりとした痛みに夢ではなかった。
初めてとも言える高尾の寝顔に、ゆっくりと体を起こした黒子はそっと高尾の顔を覗き込む。よくよく見れば、高尾の目の下には凄い隈があった。
近頃忙しいのか滅多に帰宅することもなく、帰宅したとしても夜遅い時間で、顔を合わせる時間もほとんどなかった。
身動いでも起きる気配のない高尾に、余程疲労が溜まっていたのだろう。ぐっすりと眠りこけている高尾に身を屈めた黒子は、そっと少しやつれた頬に手を添えた。
「お疲れ様です、高尾くん」
「うん、だからもう少し一緒に寝てよう」
掠れてはいたがしっかりとした声が聞こえたかと思えば、伸びてきた手によって引きずり込まれるように抱きしめられた。
「高尾くんっ!?」
ぐっすりと眠っていたはずなのに、一体いつの間に起きたのかと驚く黒子に、高尾は落ち着くと小さく呟く。
「ほっぺに触られた瞬間。その前はなにしてたの?」
触られたら流石に気づくよと。くすくすと高尾は楽しげに笑う。
「知りません」
むうと唇を尖らせながら、黒子はそっぽを向く。そんな黒子を高尾はさらにぎゅっと抱きしめる。
「楽しんでいるところ悪いが、いい加減起きるのだよ」
高尾の腕から慌てて抜け出した黒子は、飛び起きた。
「緑間くんっ!?」
一体いつからそこにいたのだと、腕を組みながら扉に寄り掛かる緑間の姿に黒子は目を瞠った。
対して驚いた素振りもなく、ゆっくりと体を起こした高尾は頬を膨らませる。
「緑間あ。良いところを邪魔するなよ」
「だから邪魔したに決まっているだろう」
お前は馬鹿かと呆れられた高尾は、肩をすくめた。
「お前も混ざる?」
空いているベッドを高尾はぽんぽんと叩きながら、高尾はにやにやと笑う。
「ふざけてないで起きろ。今日は遠出するのだろう」
滅多にない、ふたり同時の休日。かなり以前から遠出の約束をしていたことを思い出した黒子と高尾は慌てて飛び起きた。
「おはようございます、緑間くん」
「おはよう、緑間」
「おはようなのだよ、黒子、高尾」
三人で迎えた幾度目かも分からない朝。数え切れないほど交わした挨拶を、今日も三人は口にした。