紫原君と!   紫原×黒子




「黒ちん」
「何ですか?」
 読んでいる本に視線を落としたまま、顔を上げる素振りのない黒子に、むくりと紫原は頬を膨らませる。
「黒ちん」
「はい」
 やはり顔を上げない黒子に、ますます頬を膨らませた紫原は、自分よりも小さなその背中に覆い被さるように抱きつく。全体重を掛ければ支えきれないのは分かっているから、重いと感じる程度に体重をかければ、紫原くんっと大きな声で名前を呼ばれた。
「なーにー?」
「何、じゃありません! 重いからどいてください!」
 すでに本を呼んでいられる状況ではなく、いまだ手に本は持っているけれど、すでにその視線は本から外れていた。それに紫原は、少しだけ機嫌を良くする。
「えー、だって黒ちんが構ってくれないから」
 二度も名前を呼んだのに、振り向いてくれなかった。だから黒子が悪いと言い募る紫原に、分かりましたからと黒子は声を張り上げる。
「どいてくれたら、構ってあげますから! だから今すぐに、背中からどいて下さい!」
 重いですと悲鳴混じりに声を張り上げる黒子に、仕方がないなーとゆるく呟きながら紫原は体を起こす。ようやく背中に感じていた重みが消えた黒子は、ぐったりと床に突っ伏した。
「黒ちーん?」
 大丈夫ーと紫原が顔を覗き込めば、君のせいですよと鋭い目が睨み付けてくる。それに、紫原は満足そうに笑う。
 この目が、好きだ。力強い、いつだって逸らされることのない、真っ直ぐのこの目が他に向けられるのを見ると、腹立たしささえ覚える。
 臆することなく、全力で向かってくる黒子に、以前は苛立ちさえ覚えていた。けれど、想いを受け入れた今となっては、それに心地よささえ覚える。
 他に目を向けないでほしい。それが人であろうと、本であろうと関係なく、自分だけにその目を向けて欲しいと思うけれど、それが無理だと知っているから。せめて、一緒にいるときだけは、自分だけを見つめて欲しい。
「ねえ、黒ちん。放課後一緒に、ファミレスのパフェ食べに行こうー」
 つい先日から、新作メニューが出始めたファミレスの名前も一緒に告げる。期間限定だというそのパフェを、ぜひ一度は食べておかなければ気が済まない。どうせ食べるならば、大好きな黒子と一緒に食べたかった。
「僕はマシバのシェイクが良いです」
「バニラアイス分けてあげるから、ね?」
「……仕方がないですから、付き合ってあげます」
 少し譲歩すれば、渋々ながらに黒子は頷く。それに、紫原は嬉しそうに笑う。
「うん、じゃあ、約束ね」
 指切りげんまんと、小指同士を絡めて歌い出した紫原に、黒子は仕方ないとばかりに付き合った。