何度でも




 夕日に照らされ、オレンジ色に染まったバスケットゴールへとダンクを決め込んだ火神は、着地した体制のまま地面を睨み付ける。
 先日行われたインターハイ予選。時に苦戦しながらも、順調に誠凛は勝ち進んでいった。去年大敗した北の王者・正邦との準決勝戦は苦戦を強いられたが、なんとか勝利をもぎ取り、迎えた決勝戦。東の王者・秀徳高校との試合もまた苦戦を強いられたが、接戦に次ぐ接戦だった。秀徳の虎の子が出場するまでは――。
 接戦でなだれ込んだ4Q。どっちが勝っても負けてもおかしくない中、秀徳が投入した虎の子・黒子によって試合の流れは変わった。姿が見えない相手に奔走させられ、結果誠凛は決勝リーグに進むことなく、Aブロック決勝戦で敗退した。
 相手はキセキの世代のひとりを獲得した秀徳。これまでのどの試合よりも厳しいものだったとはいえ、勝てない試合ではなかった。それが――。
 キセキの世代。十人にひとりともいうべき天才五人と同時に噂された、幻の六人目(シツクスマン)。誰も知らない、試合記録もないその存在を誰もが一度は耳にしながらも、ただの噂だと聞き流した。
 キセキの世代すら知らなかった火神はともかく、日向やリコたちはその噂を一度ならず耳にしていた。誰かがふざけて言ったことが、噂としてひとり歩きしたのだと思い込んでいた幻の六人目。
 実在していたことに何より驚き、コートにいるはずなのに気づけばその存在を忘れてしまう見えない相手との戦いに、誰もが恐れ戦いた。対策を立てようにも、相手は見えない相手。体勢を整える間もなく、試合終了のブザーが鳴った。
 自分たちに勝利し、決勝リーグへと進んだ秀徳はその後順調に勝ち進んでインターハイへと出場したが、同じくキセキの世代を獲得した桐皇に敗北した。あの緑間と黒子が相手でも、青峰には勝てなかったという事実が、火神に重くのし掛かった。
 アメリカから日本へと舞い戻り、バスケのレベルの低さになによりショックを受けた。強い相手をと望み、化け物レベルで強いというキセキの世代が相手になろうと、勝ってみせるという意気込みはすでに消えていた。
 世界はどこまでも広い。自分が狭い世界にいたことに気づいたことになによりショックを受けたが、それ以上に身震いするほどのあの強さに自分は到着できるのかという恐れを火神は抱いていた。
 あの強さに追いついて、打ち勝ちたい。才能ともいうべきあの強さに、果たしてどこまで追いつけるのか。
「くそっ」
 圧倒的なまでの実力差に、今のままでは絶対に勝てない。それがなにより火神は悔しかった。
「――どうしました?」
 気配もなく、ひょこりと顔を覗き込まれた火神は、目を見開き仰け反った。
「うわっ! って、お前っ!!」
 今し方思い浮かべていた相手に、火神は思わず指差した。
「黒子!」
 幻の六人目。キセキの世代と共に帝光中のレギュラーとして活躍していたという黒子テツヤの姿がすぐそこにあった。
「はい」
「なんでここにいるんだよっ!?」
「なんでって、バスケの練習をしに」
 あっさりと告げた黒子の手には、マイボールらしきバスケットボールがあった。
 目の前にはバスケットゴール。わざわざマイボールを持参したバスケ部員がすることといえば、ひとつしかない。
 その正体を知る前に一度、この場所で会ったことがあった。黒子もまたこの場所を練習場としていても不思議なことではなかった。
 当たり前のことを聞いてしまった火神は、気まずげに視線をさまよわせた。
「君も練習ですか?」
「まあ、そんなもんかな」
 本当は胸に渦巻くもやもやとしたものを吐き出したくてがむしゃらにダンクシュートを決めに来ただけだとは、なぜか言いにくかった。口籠もりながらも頷けば、そうですかと黒子はあっさりと納得する。
「情けなく思いました?」
「はっ?」
 唐突な問いに、火神は間の抜けた声を上げる。
「君たちに勝っておきながら、桐皇に惨敗だった僕らのこと、情けない奴らだって思いませんでしたか?」
 てっきり自分の心情を言い当てられたのかと一瞬焦った火神は、真顔になった。
「なんだよ、それ」
 ふざけるなと、ふつふつと怒りが沸き上がる。
「それじゃあまるで、俺らがお前らが負けたことを喜んでるみてえじゃねえか!」
 決勝リーグでの秀徳対桐皇戦。キセキの世代同士の対決とあって、観客は溢れかえっていた。その中に火神を始めとする誠凛バスケ部も混ざり込んで、秀徳と桐皇の対決を固唾を呑んで見守った。
 互角ともいえる戦いで、先制点を取ったのは秀徳だった。すぐに巻き返した桐皇に、秀徳は追い縋った。いつでも巻き返せる点差は少しずつ開いていき、秀徳は桐皇に追いつくことなく試合終了のブザーは鳴った。
 悔しげな、悲しげな黒子の背中を見つめながら、火神が抱いたのは悔しさだ。自分たちに勝った秀徳でさえ、桐皇に、青峰には勝てなかった事実。
 練習試合で戦った海常の黄瀬とも、緑間とも違った強さ。十年にひとりと言われるだけのその強さに身震いしながら、互角に戦えない自分の力不足に嘆いた。
 あの男と戦いたい。互角に戦えるだけの強さが欲しいと。
「決勝リーグに進めなかったことは確かに悔しかったさっ! 俺らに勝ったお前らでさえ青峰に勝てなかったことも悔しかった! けどな、試合に負けて負けて悔しいって、情けないって思っても、俺たちに勝った相手が負けて情けねえとは思ったりしない!!」
 自分たちの弱さに、悔しさや情けなさを感じることはあっても、自分たちを倒した相手の負けを喜ぶほど落ちぶれてはいないと。怒り狂う火神に、黒子はきょとりと目を瞬かせたかと思えば頭を下げた。
「ごめんなさい。失礼なことを言いました」
「ああ、本当にな」
 すぐさま謝罪した黒子にたじろぎつつも、火神は吐き捨てるように言い放った。
「でも、火神君の本心を知れて良かったです」
「はっ?」
「君と一緒に試合できたら、きっと楽しかったでしょうね」
 思わぬ言葉に、複雑な思いになる。どんな表情をすれば良いのかも分からず、火神は困り果てる。
「こちらの話なんですけど、本当は僕、誠凛に行くはずだったんです」
「はあ?」
 こいつは一体なにを言っているのだと、真っ先に抱いた感想はそれだった。
「誠凛に来るはずだった奴が、どうして秀徳にいるんだよ」
「家庭の都合というやつです。父親が秀徳の卒業生で、自分の子にも同じ学校に通って欲しいという願望を捨てきれなかったみたいで。誠凛に行きたいという僕に、秀徳も受験したら誠凛に行ってもいいと言われて受験したんですが、ものの見事に秀徳も誠凛も合格したら、私立には入れんって言われちゃって」
 公立校と私立校では授業料も違う。これが逆ならば説得も容易かったが、生憎と誠凛が私立、秀徳が公立と、親の負担を考えれば誠凛に行くと強行することは黒子にはできなかった。
 結果、第一志望だった誠凛ではなく、親に言われるがまま、黒子は渋々と受験した秀徳へと進学することになってしまった。当初は父親を恨んだこともあったが、今では昔の話だ。
「秀徳の試験の時、手を抜けば良かったじゃねえか」
「本当にそうですね。受験するだけで良いという言葉を鵜呑みにしてしまった僕が馬鹿でした。でも、今はこれで良かったと思ってます」
 穏やかに黒子は微笑む。
「一歩間違えば、お前の相棒は緑間じゃなくて俺だったかも知れねえのか」
 目の前にいる黒子と相棒として組んでいる姿は想像できなかったが、そういった未来があったかもしれないと言われれば、もったいないと思ってしまう。
「ちょっと意味合いは違いますが、そうですね」
「なにが違うんだよ?」
「この場合、一歩間違えばという表現は適切ではありません」
「そうなのか?」
「そうです」
「日本語って難しいな」
 片手で頭部を掻きながら、日本語の難しさを火神は嘆く。
「そういえば帰国子女だったと伺いましたが」
「そうだけど、誰から聞いた?」
「黄瀬君から」
 あいつかと、キセキの世代のひとりであるわんこぽい黄色い奴を火神は思い出す。
「小三から中二までアメリカにいたせいか、日本語は得意じゃねえんだ」
 話せるし書けるが、難しい表現は苦手だ。英語も得意というわけではなかったが、それでも話すことはできる。
「そうだったんですね」
 ならば納得だと、黒子はひとり頷く。
「それより、黄瀬のあれはなんだよ」
「黄瀬君ですか?」
 何のことでしょうと、黒子は小首を傾げる。
「人のこと火神って呼び捨てにしていたかと思ったら、火神っちっていつの間にか呼んでるし。会うたび、火神っちって叫びながら駆け寄ってくるし」
「ああ、懐かれましたね」
「嬉しくねえよ!」
 間髪入れずに火神は返した。
「諦めてください。認めた相手に対してああなのは、昔からなので」
「認めた?」
「黄瀬君がバスケで負けた相手は、他のキセキともうひとりだけです。懐かれたって事は、黄瀬君に認められたって事ですから、嬉しくなくても喜ばしいことではありますよ」
 だから色々と諦めてくださいと、黒子はばっさりと切り捨てる。
「……もうひとりって誰だよ」
「かつて帝光中バスケ部でレギュラーだった同級生です。途中で退部しましたが」
 どこか遠くを見つめる黒子に、退部理由が気になったが深くは尋ねられなかった。
「変なこと聞くけどよ」
「はい」
「青峰となにかあったのか?」
 顔を強張らせた黒子に、言葉にせずともその態度でなにかあったことは知れた。
 近くで様子を見ていたわけでもなく、会話も全く聞こえなかったが、秀徳対桐皇戦での青峰と黒子の様子は尋常ではなかった。なにか確執めいたものを、あの試合の最中火神は感じ取っていた。
「……青峰君のプレイを見て、どう思いました?」
 重い口を開いた黒子は、静かに尋ねる。
「どうって、すげえなって」
 キセキの世代のひとりである緑間と対戦してその強さを思い知ったが、青峰のプレイは一線を画していた。まるでバスケの神様に愛されていると思わせるほどに、一挙一動全てに火神は魅せられた。
「他には?」
「他にって……」
「楽しそうにプレイしてました?」
「言われてみれば、違ったな」
 獰猛な笑みを浮かべてはいたが、試合中少しも楽しそうに見えなかった。試合終了のブザーが鳴った瞬間に青峰が見せたのは、勝利に対する喜びではなく、失望だった。
「昔、まだキセキの世代と呼ばれる前の青峰君は、バスケが大好きだったんです」
「今は?」
 ふっと黒子は悲しげに笑う。
「昔の青峰君は本当にバスケが大好きで、大好きで。練習をサボったことも、試合を欠場することもありませんでした」
 インターハイ予選リーグで青峰が出場した試合は、対秀徳戦だけだった。他の試合は、その姿を一度も見せることなく、全試合桐皇が勝利していただけに、黒子から語られる青峰の話はにわかには信じがたかった。
「バスケが大好きな青峰君がその才能を発揮させたのは、そう遅いことではありませんでした。少しずつ少しずつ強くなっていく彼に、周囲が敵わなくなるのも早かった。それでもバスケが好きだった青峰君は真剣に試合に臨みました。けど……」
「周囲はそうじゃなかったのか」
「はい」
 良くある話しだ。
 圧倒的なまでの強さを誇る相手に、負けがすでに目に見えている状態で真剣に戦えるほど、中学生の心は強くない。そして手を抜かれた青峰もまた、そこまで心が強くはなかった。
「次第に青峰君は荒れていきました。自分がどんなに真剣に試合へと望んでも、相手が同じ気持ちを返してくれるわけではないと。手を抜いたところで容易く勝てる相手です。その内練習にも姿を見せることもなくなりました」
 ふざけた話だと思いながらも、自分もまた青峰の立場に立たされたとき、荒れない自信はなかった。
「一度はバスケを辞めようと思った僕を懸命に引き留めてくれた彼を、僕は助けることができませんでした」
「それは、お前のせいじゃないだろう」
 黒子ひとりだけが頑張ったところで、周囲の意識は変えられない。どうやっても、その時の黒子は青峰を救えなかったはずだ。
 慰めの言葉を掛ける火神に、黒子はゆるく頭を振る。
「僕は、彼の相棒だったんです。僕がなんとかしなくちゃいけなかったのに……っ」
「それこそ無理な話だろう。あの青峰相手に、お前ひとりでどうこうしようと思っても、敵うわけがない」
「だから、青峰君を倒せる相手が欲しかったんです」
 あの青峰を倒せる相手をと。自分ひとりだけでは到底叶わぬ夢だからこそ。
 青峰の失望したあの顔も、その背中を縋るように悲しそうに黒子が見つめていた理由も、ようやく火神は納得がいった。
「大体見えたぞ。つまりお前は、青峰の野郎にもう一度楽しくプレイしてほしくて、あいつを倒せる奴が欲しかったわけか」
「そうです」
「それで緑間を選んだのか?」
 同じキセキの世代のひとりだ。今回は負けてしまったが、あの青峰となんとか互角に渡り合った緑間に、いずれ勝つことも夢ではないはずだ。
「僕、入学してすぐ、バスケ部に入らなかったんです」
「はっ?」
「誠凛への進学を絶たれたとき、なにもかも諦めて、二度とバスケはしないと誓ったはずだったんですけど」
「お前、だってバスケ部員としてインターハイ予選に出場していただろうがっ!」
 バスケ部員として登録していなければ、そもそも試合に出場できない。
「色々あって、途中入部した結果ですね。まあ、そんなこんなで青峰君には負けてしまいましたけど」
 次こそは勝つと。力強い闘志を燃やす黒子に、火神は訳わかんねえと呟きながら、片手で頭部を掻いた。
「よくわかんねえけど、色々あったわけか」
「一言で片付けましたね」
「お前らの難しい話に付き合ってられるかっ!」
 めんどくせえと吐き出す火神に、黒子は笑う。
「そういう火神君のこと、好きです」
 ぎょっと火神は後ずさる。
「火神君?」
「なあ、黒子。ひとつ聞いても良いか?」
「なんでしょう?」
「お前、ゲイ?」
 じりじりと黒子と距離を開ける火神に、黒子はきょとりと目を瞬かせる。
「恋愛対象は基本的に女性ですが、どうしてですか?」
「いや、好きって言ってきたから」
 単なる友人に向けた愛情表現だったのかと、火神はあからさまに安堵する。
「アメリカにいたって言ってましたが、もしかして向こうでそう言った人たちにもててました?」
「ノーコメントだ!」
 否定しないということは、肯定したも同然だった。
 ジッと見つめる黒子に、火神は居心地悪げに身動ぐ。
「なんだよ」
「いえ、なんでもありません」
 それよりもと言いかけた黒子の言葉は遮られた。
「――黒子っ!」
 突然聞こえてきた大きな声に、黒子と火神は咄嗟に振り返った。
「やっほー、テっちゃん!」
「緑間君っ!? それに、高尾君まで」
 どうしたんですかと、ふたりの登場に黒子はひどく驚いた。火神もまた思わぬふたりの登場に目を見開く。
「ひどい、テっちゃん。俺はついでなの!?」
「高尾君……」
 ひどいと詰る高尾に、黒子はたじろぐ。
「高尾、いい加減にするのだよ」
 いつまでも続きそうな高尾に緑間が制止の声を掛ければ、ぴたっととまった。
「久しぶりだな、緑間」
 インターハイ予選以来の邂逅に、火神と緑間は睨み合う。
「相変わらずの馬鹿面だな、火神」
「なんだとっ!」
「緑間君、今のは君が悪いですよ」
 険悪なふたりの間に割って入った黒子は、失礼な物言いをした緑間を叱責する。ぐっと言葉を詰まらせた緑間に、黒子は目を細めた。
「緑間君」
「火神、すまなかったのだよ」
 渋々ではあったが謝ってきた緑間に、火神は怒りをぶつける矛先を見失った。
「まあ、仕方がないから許してやる」
「火神君、緑間君がすみませんでした」
「黒子が謝ることじゃねえだろう」
 相棒でチームメイトとはいえ、緑間と黒子は違う人間だ。緑間に代わって黒子が謝る必要はどこにもなかった。
「火神、勝負しろ」
「はあっ!?」
「1on1対決で、先に10ポイント先取した方が勝ちだ」
「ちょっと待てよ、緑間!」
「なんだ、嫌なのか?」
 憮然とした物言いに、火神は吠える。
「当たり前だろう! 急に対決しろって言われて、はいそうですかって頷けるか!」
「逃げるのか?」
「なんだとっ」
 ピクリと眉を動かした火神は、獰猛な笑みを浮かべる。
「良いぜ、その挑発受けて立ってやるっ!」
 後悔するなよなと吠える火神を、緑間は冷ややかに見下ろした。
 顔を見合わせた黒子と高尾は、邪魔にならないようにコートの端へと移動する。
「あの、高尾君」
「なに?」
「緑間君、どうしたんですか?」
 いつもとどこか様子のおかしい緑間に、黒子は大いに戸惑っていた。
 そもそも今日は緑間と会う予定もなく、今いるバスケットコートは黒子の家からはほど近いが、緑間の家からは電車の距離にある。どうしてここに高尾と共にいるのだという黒子の戸惑いは当然のことだった。
「テっちゃんさ、緑間にメール送らなかった?」
「送りましたけど」
 それがなにかと、黒子は小首を傾げる。
「緑間、そのメール見た瞬間に俺にここに来いって有無を言わせずに連絡寄越してきたんだよ」
「どうしてですか?」
「本当に分からない?」
 意地の悪い笑みを浮かべる高尾に、黒子はこくりと頷く。
「送ったメールの内容、覚えてる?」
「家の近所のコートで火神君を見つけたと」
 それがなにかと、黒子は不思議そうだった。
「緑間の野郎は、嫉妬したんだよ」
「嫉妬、ですか……」
 馴染みのない言葉に、黒子は目を瞬かせる。
「テっちゃんは本当はさ、秀徳じゃなくて誠凛に行く予定だったんでしょう?」
「はい」
「もしもさ、秀徳に来なければ火神が相棒になってたってことじゃん」
 そうですねと、黒子は頷く。
「だから緑間は心配なんだよ。テっちゃんが秀徳じゃなくて誠凛に行ったとしたら、今頃自分とじゃなくて火神と付き合っていたんじゃないかって」
 可愛い奴だろうと、高尾は笑う。
「心配する必要なんてないのに」
 ぽつりと、黒子はこぼす。
 いつの間にか始まっていた対決は、やや緑間がリードしていた。必死に食らいつく火神に、勝敗は見えない。
「それってさ、どういう意味で?」
「なにがあったとしても、僕は何度だって緑間君に恋に墜ちるってことです」
「うひゃあ、なにその殺し文句!」
 聞いたこっちが恥ずかしいと、耳まで赤くした高尾は両手で顔を覆った。
 火神の一瞬の隙を突いて、緑間は見事な3Pシュートを決める。流れるようなその動きに、黒子は思わず見惚れた。
「テっちゃんって、本当真ちゃんのことが好きだよね」
「たまに高尾君に嫉妬するぐらいには、好きですね」
 冷やかすつもりで言ったはずなのに、返り討ちを食らった高尾は面食らう。
「……もう、負けたわ」
 これでは敵わないと、高尾は白旗を上げる。
「あーあ、俺も恋人ほしっ」
「きっと、いい人が見つかると思いますよ」
 ぼやく高尾に、その目を緑間から外すことなく黒子は慰めの言葉を掛けた。