■ただ側にいたいと、そう願って。
「――スザク?」
携帯電話を手に持てば、いきなり腕をつかんだスザクに、ルルーシュは訳が分からず、首を傾げた。
名前を呼んでも反応しないどころか、腕をつかむ手の力を、スザクは強める。
「スザク、痛い……っ!」
骨が軋むほどに強くなった手の力に、ルルーシュが悲鳴を上げれば、慌てたようにスザクは腕を放した。
その表情はどこか困惑しており、今の行動が無意識だったことを教える。
「ごめっ……。僕、どうかしてた……」
「スザク、何かあったのか……?」
スザクらしからぬ行動に、何かあったのかと、ルルーシュは手を伸ばす。
けれど、それを拒絶するかのように、スザクは後ずさった。
まるで、ルルーシュを拒絶するかのように。
「何でもない。何でもないんだ、ルルーシュ」
「だが、――」
「ルルーシュは、ユフィの、ユーフェミア様がおっしゃられた行政特区日本を、どう思う?」
真剣な表情で問いかけるスザクの眸は、揺れていた。
「いきなり、どうしたんだ?」
先日の学園祭での、突然の発表。
それを快く思わないブリタニア人が多いのもまた事実だ。
だが、日本人は――日本人であるスザクは、違う。
「答えてほしい、ルルーシュ」
「良いんじゃないか、日本人がそれで自由になれるというのなら」
「本当に……?」
「ああ。本当にどうしたんだ、スザク?今日はいつもと、違うぞ」
無意識らしい行動も、しつこいほどの質問も。
いつものスザクらしからぬ行動だ。
「疲れているんだと思う。行政特区日本の準備で、近頃忙しいから」
「ああ、そうか。式典まで日がないからな。けど、ちゃんと休まないと駄目だぞ」
「分かってるよ。だけど、無事に行政特区日本が設立さえできれば――」
はっと、慌てて自分の口を押さえたスザクに、ルルーシュは再び手を伸ばす。
今度は拒絶されなかったことにほっとしつつ、ルルーシュはスザクの額へと触れる。
「熱は、ないな」
様子のおかしいスザクに、体調でも崩したかと額へと手を触れれば、特に高くはない。
むしろ、スザクの体温はルルーシュの体温より低かった。
「熱がないからって無茶はするなよ。今日はできるだけ早く休んで……スザク?」
突然首筋に顔を埋めたかと思えば、腰に手を回して抱きしめたスザクに、ルルーシュは戸惑いの声をあげる。
「お前、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫。だから、ちょっとだけ、こうさせて、ルルーシュ」
常になく弱々しいスザクの声に、ルルーシュはスザクの好きにさせた。
そう、ほんの少しだけ。
ただのルルーシュとして、スザクの側にいたいと、そう思ったから。
――君は、ゼロではなく、ただのルルーシュに戻れる?